学生の頃の話。

私は、原付で夜道を走っていた。田舎なので外灯は少なく、両脇は田んぼなので真っ暗。

ふと、道の端にある大きめのゴミ袋の様なものが、ヘッドライトに照らされた。気になったが、そのまま素通りした。


すると、丁度横を通り過ぎようとした瞬間、ゴミ袋だと思っていたものが立ち、私を追いかけて来た。黒い着物を着た人間の様だったが、頭だけが赤黒く目鼻口は見当たらない。

そいつは、かなり足が速く、距離を保って逃げるのが精一杯だった。逃げている内に、追って来るそいつの頭がドンドン膨らんでいるのに気付く。

前方に民家が見え始めた頃には、膨らみ過ぎて原付のミラーにも映り切らない。一瞬後ろを振り向くと、そいつの頭は私をスッポリ覆うほどに巨大化していた。

それでも速度は衰えず、普通に走って来る。私が田んぼの道を抜けると、そいつはピタリと追うのを止めた。

振り向くと、忽然と消えている。帰宅した私は、この話を曽祖母にだけ話した。

「そりゃ、お前の影だよ。お前に取って代わるつもりだったんだな。

」曾祖母にまじないを教わってから、もう「影」には会っていない。